日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター 中竹 竜二氏

株式会社システム科学 代表取締役社長 石橋 博史氏

特別対談 現代日本が抱えるマネジメントの課題-可視化の必然性-

日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターとして、
2019年ラグビーW杯日本開催に向けた指導者の育成と指導体制の
構築を担う中竹竜二氏と、人材育成型カウンセル活動である
「HIT法」を提案するシステム科学代表の石橋博史氏。
スポーツとビジネス、それぞれの立場から人材の育成に
携わる2人に、管理職が抱える人材育成の課題やリーダーの
あるべき姿を語り合ってもらった。

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日経ビジネスオンラインSpecialにて掲載中


日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターとして、 2019年ラグビーW杯日本開催に向けた指導者の育成と指導体制の 構築を担う中竹竜二氏と、人材育成型カウンセル活動である 「HIT法」を提案するシステム科学代表の石橋博史氏。 スポーツとビジネス、それぞれの立場から人材の育成に 携わる2人に、管理職が抱える人材育成の課題やリーダーの あるべき姿を語り合ってもらった。
"人を育てる"という経験

日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター
U20日本代表ヘッドコーチ

中竹竜二

早稲田大学ラグビー蹴球部時代、レギュラー経験はなかったものの主将を務め大学選手権準優勝を収める。三菱総合研究所勤務を経て、2006年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。全国大学選手権2連覇を達成する。2012年よりラグビーU20日本代表監督。現在は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務めながら、株式会社TEAMBOXの代表取締役CEOとして企業のリーダー育成に貢献する。

──中竹さんはリーダー養成講座「課長塾」で講師を務めていらっしゃいます。そこでは、「人材育成に課題を感じている管理職が多いと感じた」とのことですが、その理由をどう考えますか。

中竹 人を育てることは、人生で体系的に学べるものではありません。体験としてあるのが学校教育の「teach」で、持っている知識を与えるということ。管理職の人材育成も、多くはこれをベースにしています。もちろん「teach」は大事ですが、それしか手法がない、それだけやればいいと考えるのは間違い。「teach」は人を育てるために100ある方法の1つにすぎません。

──石橋さんは、人材育成の課題をどうとらえていますか。

石橋 中竹さんのおっしゃる通りで、企業は人材育成の方法を研究していません。知識ベースに重きをおいた、OFF.J.Tが主流になっています。

──OJTに問題があると。

石橋 そうではありません。問題は、見よう見まねで経験的にOJTを構築することや、部署ごとに管理体制が異なることです。例えば、経理に配属されて経理の仕事だけしか指導されなければ、他部署のことは分からない人材が育成されてしまう。それは、縄張り意識が生み出す弊害にもつながります。優秀な人材を育てるには、もっと視野を広げることができる多能職化育成が必要ですね。

株式会社システム科学
代表取締役社長

石橋 博史

1962年から24年間、自動車機器メーカーに勤務。教育担当、人事、総務、工場長、社長室の職務を歴任。トヨタ生産方式、業務改善推進を担当する。1986年、システム科学を設立。業務革新の実践および「HIT法」を開発・導入し、2010年2月に「チャート作成システム及び業務プロセスの可視化法」で特許取得。

──「視野が広がる」とは、具体的にどういったことでしょうか。

石橋 部署にとらわれず、自分が行っている仕事の前工程と後工程が見えている状態です。HIT法の業務改善のやり方は、業務プロセスを共通のチャートに落とし込むことで、どの部署のどの人が、どんな仕事をしているかを可視化します。要は、自分の仕事だけでなく、自分の仕事の前後で起こっていることまで見える化されるため、状況判断がしやすくなるのです。その時々の負荷に合わせて部署間をまたいだ人材支援ができれば、業務の平準化をができるのはもちろん、専門以外のスキル取得、つまり多能職化の効率も上げられます。

──業務の可視化ができれば、これまで目立たない仕事をしてきた人材も正しく評価される気がします。これは、中竹さんの人材育成のキーワード「フォロワーシップ」にも通じるところがあるのではないでしょうか。

中竹 僕の言う「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」は、理念ではなく、行動に特化したものです。人が「リーダーシップ」を発揮するのは、組織を引っ張っている状態です。例えば、プロジェクトのマネジメントや人前でのプレゼンなどがそうですね。他方、「フォロワーシップ」は、会議の準備をする、困っている人を助けるなどをひっくるめて、組織や人を支えること、見えないところでサポートすることだと考えています。しかし世の中は、リーダーを見るときに、表に出る「リーダーシップ」ばかり評価してきたのでひずみができてしまった。しかし、リーダーにだって、傾聴やアドバイスなど「フォロワーシップ」が必要なタイミングがある。大切なのはバランスよくやるということです。 

石橋 非常に正しい話です。私たちのマネジメントも中竹さんと同じで、リーダーができない人をフォローすることを重要視しています。これは、仕事が可視化されて、誰がどんな仕事をどの程度抱えているかが見えるからこそできることなのです。

仕事ができない部下はいない


──人材育成では、部下の仕事量や仕事内容を把握することが重要だと分かりました。中竹さんは、どういった手法でメンバーを把握しているのでしょうか。

中竹 個人面談を重要視しています。フォーマットが決まっている面談はもちろん、定型にとらわれない面談も数多く行いますね。基本的にはこちらから何かを伝えるというより、質問をして答えてもらう。その答えが練習中にしっかりと出ているかを見ています。言行が一致しているか、それによってどう成長しているかを細かく見ることが重要だと考えています。

──自分で言葉にしたことを実際に行うことで成長するということですね。

中竹 自分で考えることで、自らのスタイルが見えてきます。スタイルが見えてくれば、自分らしさとは何か、その自分らしさでチームにどんな貢献ができるのかが分かってきて、自発的に動けるようになる。逆に、課題や仕事ありきで人を配置しようとすると、その人のスタイルとはかけ離れた業務に就くことになってしまい、お互いにとって不幸になります。

石橋 確かに、課題や仕事ありきで人を配置すると、それは「管理」になります。それよりも、意欲増進をどうフォローしてあげるのかが重要です。HIT法を、やり方を教える「コンサル」ではなく、一緒になって考えてアドバイスをする「カウンセル」活動だと位置づけているのもそうした理由からです。

中竹 私はよく「グループ」ではなくて「チーム」になろうねと言っています。「グループ」は、役割分担が明確です。つまり責任をそれぞれが担うため、やるべきことはわかりやすい。利益を追求するには効率的です。しかしその分、失敗も個人にのしかかってしまいます。一方、「チーム」は、全体の利益のために、自ら貢献できることを探します。役割や課題がなくても動くんですね。そして、責任を分担するのではなく、責任を共有する。企業では商品に不具合が発生したときに、営業が「自分が作ったのではない」と開き直ることがあります。また、クレームの電話を取った人が「私のせいじゃないのに……」と思うことも。これは「グループ」の考え方。「チーム」では、どんなことが起こっても自分にも責任があると考える。僕自身はそういう心持ちを理想の姿としているので、選手に「今の“チーム度”はどれくらいか」と尋ねることがありますね。

石橋 先ほど中竹さんが「自らのスタイルが見えてくる」という話をされましたが、産業の組織でいうと、自分ができることに気がついて得意分野が見えてくると、自ずと役割も決まってきます。役割が決まれば責任も決まる。責任が決まれば権限も発生し、自分にとっての損がないように、チームのために貢献します。トップダウンでこれらを決めるのではなく、現場から自然発生的に生まれるのが理想なのですが、仕事内容が可視化されていない組織では、各々の得意分野が見えないから役割が定まらないですね。

──「仕事ができない部下ばかりで人材が育たない」と言う管理職は、部下のことを深く知ることをせずに、得意分野を把握できていないと言っているようなものですね。

石橋 そうです。そういう意味では、仕事ができない部下なんていないと言っていいでしょう。


【HIT法 チャート化する目的】
				1.ドキュメント情報:ペーパーや電子情報の流れを把握する。
				2.処理手順の改善:手順を効率化する。人の作業化情報システムかの選択。
				3.役割分担:業務の役割分担を明確にしてスピード化を図る

HIT法では業務プロセスを可視化することにより、直面する課題を解決する。個人プロセス、部門プロセス、全社のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)、そして経営の革新という流れをボトム、トップの双方からアプローチして経営革新を実現

人材を育成する「VSSマネジメント」

中竹 部下を育てるためには、目的や目指すべきところを示してあげることも重要です。

──中竹さんが提唱する「VSSマネジメント」(下図)の「V」に当たる部分ですね。

中竹 インバスケット思考にも実際の作業を細分化して自分が置かれている環境を把握したり、時間を意識したりするトレーニングがあります。目指しているところは同じで、融和性も高いと思います。

石橋 インバスケット思考にHIT法を加えると、より効率化するのではないかと感じました。インバスケット思考では、業務を棚卸しして問題を発見して分析したり、業務の優先順位を付けたりする。この棚卸しの部分で、チャートや数値で業務を可視化するHIT法を活用すれば、さらに情報が細分化されて見えてくるので、問題の発見や優先順位も付けやすくなるのではないでしょうか。

【期待のVSS】

V(ビジョン)は期待をかけられる側が目指すゴール。期待をかける側とかけられる側ですり合わせをして共有。S(シナリオ)は、期待をかけられる側が困難に陥ったときかける側がどう振る舞うのかをすり合わせておく。S(ストーリー)は、期待のゴールに至るまでの道のり。困難も想定しておく。

中竹 「VSS」は目の前にいる人をドラマの主人公にしたてあげる方法です。Vはビジョンで、ハッピーエンドのエンディング。Sはストーリーで、いいこと、悪いことを含めたエンディングに至るまでの物語。そして、ストーリーを作り出すのに必要な細かい設定などがSのシナリオです。よくビジネスではストーリーを描くときに、右肩上がりの事業計画を立てます。しかし、僕からするとあり得ない話。ハッピーエンドだけで映画は成り立たない。途中に浮き沈みがあるから面白くなる。人間が筋肉をつけるときにだって、筋繊維の破壊と回復を繰り返します。それと同じで、企業も人も成長には良し悪しの波がある。波があるからこそストーリーが生まれるのです。

──部下を育てるべき管理職は、ビジョンを描くのが苦手そうです。

中竹 ビジョンを描く際に重要なのは、ワクワクできることです。たまに、ビジョンに達成すべき数字を設定することがありますが、それはあくまでゴール。ビジョンはゴールの先にあります。人材育成に「VSS」を活用するなら、育てたい相手とともにスタイルを理解し合った上で、ビジョン自体は本人に描かせるべきです。ビジョンを描くのは難しいように感じますが、これはトレーニングで会得できるものですので。普段、ラグビーのコーチングで僕は選手に、「このシーズンで何を成し遂げたいか」を質問します。そこで「勝ちたい」と答えたら、どう勝ちたいかを具体的に聞く。「圧倒的に勝ちたい」「50-0で勝ちたい」。では勝った後にはどんな光景が待っているか、どんな脚光を浴びているか、と質問を深掘りしていく。すると、ワクワクしてくるでしょう。会議も同じです。「今日の会議のビジョンは何か」と考えるんです。全ての局面においてビジョンを考えると、それが習慣化されます。

──ちなみに、今日の対談のビジョンは。

中竹 そうですね……石橋社長と共感し一生の友になる、飲みに行って仕事を一緒にする、とか。

石橋 いいですね。人材育成でビジョンやストーリーにさかのぼるのは、ビジネスシーンには足りない発想です。現場で人材育成がうまくいかない理由には、会社が人材の育て方をしっかりと教えていないことに加えて、部下を育成すると管理職自身の立場が危うくなると思っていることが挙げられます。だから、プレイングマネージャーと称して、部課長クラスが自分で仕事を抱え込んでしまう。

中竹 スポーツにもそういった傾向はあります。基本的にいい指導方法はライバルチームに抜かれたくないので、共有することはありません。結果として、監督クラスの人材育成が滞って、旧態依然としたコーチングばかりになる。僕は、新たに「フォロワーシップ」という方法を取ることで、成果を出すことができました。今は指導者を育てるコーチングディレクターとしてこのやり方を共有することで、ラグビーに貢献したいと考えています。十分とはいえませんが、コーチ陣には、新しい手法がかなり浸透してきたと感じています。

石橋 変化を受け入れるのは簡単ではありません。「自分は一生懸命やっている」という意識が強いと、変化に対して抵抗勢力になってしまうからです。しかし、仕事を可視化すると、主観的だった「一生懸命」が客観視されるので、ムダな作業に気がつく。そうすれば、変化、改善も受け入れられやすい。クローズドなものをオープンにできるんです。

リーダーに必要な条件

──クローズドなものをオープンにする過程では、上司と部下だけでなく、仲間同士でのコミュニケーションも重要な気がします。

中竹 おっしゃる通りです。監督と選手の双方向コミュニケーションでは限界があると思っています。そこで重要になるのは、選手同士がコミュニケーションを取る多方向コミュニケーション。監督がやるべきことは、選手たちで互いに意見が出し合える環境づくりや、萎縮せずに何度でも発言ができるような機会を作ってあげること、そしてそのために徹底的に準備を行うことです。

石橋 対話は物事を可視化するひとつの方法です。スポーツはプレーが目に見えるから、必然的に対話も生まれやすいでしょう。しかし、属人的になりがちなホワイトカラーの仕事は端から業務内容が見えない。見えないから対話も生まれない。だからこそ、HIT法のような可視化システムが必要になるのです。

──HIT法の可視化を使えば、ムダな業務を洗い出すことができます。石橋社長は常々、仕事の6割は誰でもできる単純作業だとおっしゃっていますね。

石橋 そうです。残りの4割が、戦略を練ったり判断を下したりする重要な業務なんですね。管理職は6割の仕事を上手に配分しながら、重要な業務に着手するべきです。それには自分が仕事を抱えていてはダメ。これが、マネジメントの本質です。

──しっかりとした判断を下せるのは、いいリーダーの条件ですね。中竹さんが考えるいいリーダーとはどのような人でしょうか。

中竹 よく「組織はリーダーによって変わる」と言いますが、僕は「リーダーが変われば組織は変わる」と思っています。日本のリーダーは、できない部分を部下に見せない。しかし、本当はできない部分を部下にさらけ出しながら、できるようになる過程を見せるべきだと思うんです。部下にフォローしてもらってもいい。上司が学ぶ姿を見れば、部下も学び成長するはず。そうやって、部下がどれだけ成長するかが、いい上司の基準になるのではないでしょうか。

石橋 私も部下を育てるには、まず自分が学ぶことだと考えます。教えることは学ぶこと。学ぶことは教えられること。日本の課長クラスの管理職はみな優秀です。しかし、現場でプレイングマネージャーになってしまっており、その優秀さが発揮されず、部下の育成もできていません。部下を育てながら、うまく仕事を配分して、管理職がやるべき仕事をやる。そうすることで、本来の意味での管理職を生み出さなければいけません。

──最後に、今日の対談の感想を聞かせていただけますか。

中竹 HIT法の可視化にとても興味がわきました。最近のラグビーでは、選手の走行距離やタックル数などの情報を全部把握しています。この情報をHIT法に当てはめて可視化すれば、練習の組み立てやポジションごとの役割分担などに応用でき、チーム作りに使えそうな気がします。

石橋 HIT法はさまざまなケース、職場に対応できるので、効率的なトレーニングソフトの開発も可能ですよ。私は、中竹さんの「リーダー自らが学ぶ」という人材育成が参考になりました。ビジネスでは、その逆のことが起きていて、学ぶ姿を部下に見せません。本来、強いチームには、自分が学ぶ姿を見せるリーダーがいて、部下の話からも知識を吸収しています。そうすることで、初めてチーム全体に対して目配りができ、それぞれのスタイルを見極めることができる。今、日本の管理職に足りないのは目配りなのではないでしょうか。

──中竹さんは、多方向のコミュニケーションで部下との関係を密にして目配りを行う。一方、石橋さんはHIT法による可視化で部下の業務内容や業務量を把握して目配りを行う。いずれも、しっかりと部下に目配りができ、それぞれのスタイルを把握することで、人材育成につながるような気がします。処方は違えども、考え方には共通する部分があるのですね。今日は、お忙しい中、ありがとうございました。

「HIT法」は「カウンセル活動」

一般的に「コンサル」とは、ヒアリング方式で行う業務改善。一方システム科学のHIT法は、マンツーマンで実践、確認・修正の推進サイクルを展開する「カウンセル」。活動終了後も改善を見つけ出す能力が身につくため、継続的に業務改善していく力をつけることができる。