ビジネスコンサルタント 細谷 功氏

株式会社システム科学 代表取締役社長 石橋 博史氏

特別対談 理不尽な残業を止めるために-可視化で全体全体最適化-

「地頭力」や「メタ思考」といった観点から問題解決や思考力に
アプローチするビジネスコンサルタントの細谷功氏と
「HIT法」を使った業務改善を進めるシステム科学代表の
石橋博史氏。物事を俯瞰することの重要性を説く両者が、
日本企業の残業問題の本質とその改善方法などを語り合った。

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日経ビジネスオンラインSpecialにて掲載中


「地頭力」や「メタ思考」といった観点から問題解決や思考力に アプローチするビジネスコンサルタントの細谷功氏と 「HIT法」を使った業務改善を進めるシステム科学代表の 石橋博史氏。物事を俯瞰することの重要性を説く両者が、 日本企業の残業問題の本質とその改善方法などを語り合った。
残業が減らない本質

ビジネスコンサルタント

細谷 功

東京大学工学部卒業後、東芝でエンジニアを経験したのち、ビジネスコンサルティングに従事。アーンスト&ヤング、キャップジェミニなどの米仏日系のコンサルティング会社を経験し、クニエのコンサルティングフェローに。専門領域は、製品開発、営業、マーケティング領域を中心とした戦略策定や業務・IT改革。併せて、問題解決や思考力に関する講演やセミナーも実施。

──働き方改革が推進される現在、企業にとって大きな課題は長時間労働の削減です。しかし単純に考えて、業務時間が減ればその分、生産性は落ちてしまうというジレンマがあります。細谷さんは、日本の企業が残業を減らすためにはどのような方法が必要だとお考えですか。

細谷 まず、個々人がムダを自覚する必要がありますね。「あなたの会社にムダはありますか」と尋ねると、社員のほぼ全員が手を挙げて意見するでしょう。しかし、「あなたが原因のムダはありますか」と尋ねると、そんなことはないと答える。ここに、残業が減らない理由があります。誰もがムダだと思う仕事は自然となくなり、誰もが必要だと思う仕事は残ります。問題なのは、自分は必要だと思うけど他人は必要だと思っていない仕事。大抵の場合、「あなたの仕事はムダ」だと指をさされても、その人なりに理由があってやっているわけです。つまり、その人自身が自分の仕事をムダだと思えないと始まらないのかなと思いますね。

─自分の仕事がムダだと気づかない、特別だと思ってしまう理由はどこにあるのでしょうか。

細谷 目的のレベルを認識していないからだと思います。例えば、社会の常識とされている「ほう・れん・そう」で考えてみましょう。「ほう・れん・そう」って、部下の立場からすれば必要のない仕事ですよね。僕も常々止めろと言っています。しかし上司にとっては、それなりに必要な理屈がある。つまり、ムダだと認識させるには、その理屈を取ってあげる必要があるんです。目的レベルを「その上司の仕事」として捉えれば必要な場合でも、「会社全体の利益」になっているかというレベルで考えると、ほとんどの場合がそうでもないことの方が多いですよね。

石橋 おっしゃる通りです。一番レベルが低いのは、CCメールの多い会社。必要な情報を送ればいいだけなのに、何でもCCメールで共有する。時間が奪われ、重要度の判断もつきにくくなる。社内で役割分担ができていない証拠です。

株式会社システム科学
代表取締役社長

石橋 博史

1962年から24年間、自動車機器メーカーに勤務。教育担当、人事、総務、工場長、社長室の職務を歴任。トヨタ生産方式、業務改善推進を担当する。1986年、システム科学を設立。業務革新の実践および「HIT法」を開発・導入し、2010年2月に「チャート作成システム及び業務プロセスの可視化法」で特許取得。

──情報共有の目的が、「とりあえず上司も知っておきたい」というレベルならムダで、その分の仕事をカットすれば、残業の削減につながるという話ですね。

石橋 結局、ホワイトカラーの仕事は情報が共有化されていないことが問題なんですよ。権威や部門間の縄張りが重視されて、会話が一方通行で終わってしまう。私は、経営者・管理職・担当者をして「経営三者」という言葉をよく使います。「経営三者」がひと目見て共通にムダを認識できることが重要なのです。その共通言語を作る必要性から生み出したのが、HIT法です。HIT法は、個々人や組織の業務プロセスを共通のチャートに落とし込み、分解・整理します。チャートによって可視化されたムダは誰でもひと目で確認できるので、分析し改善することができます。チャートによって仕事内容が可視化されるため、誰もがひと目で情報を共有することができます。

【HIT法 「チャート化の実践」】
				部下が課長から会議予定のメモを受け取り、課員全員にメールで知らせた
				従来の作業手順は課長が会議予定を紙で書き、部下がメールを作成、確認、送信していたが、改善後は課長が会議予定をメールで作成、送信する。

HIT法の基礎となる「Sチャート」は、計15種類からなる記号を組み合わせて、業務と作業を可視化。紙やディスクといった物体ではなくその中身の情報が流れていく様子が認識できるので、ムダな転記や検査が目に見えて分かる。

メタ思考とHIT法の共通点


──先ほど細谷さんから出た「目的レベルで考える」というお話は、日頃「メタ思考」として伝えられていることですね。改めて「メタ思考」とは何かお話しいただけますか。

細谷 「メタ思考」というのは、簡単に言えば、「物事を1つ上の視点から考える」ことです。部分に対して全体、手段に対して目的、具体的な個別事象に対して一般法則が見えるようになる。これができれば、視野が広くなり盲点がなくなるので、全体の目標に対してムダがなくなります。全体最適化ですね。ただ、物事を1つ上の視点から考えるには、自分や組織を客観視しなくてはいけない。これがなかなか難しいのですが、HIT法は俯瞰して考えられるきっかけになると思いますよ。

石橋 HIT法の考え方とメタ思考は非常に共感するところが多いです。どちらも、部分最適ではなく、全体最適につながります。経営にとって一番関心が高いことは、全体を俯瞰して見られることでしょう。仕事の全体像が可視化できれば、前工程・後工程と、自分や他部署の仕事がどのように関係しているか見えてきます。そうなれば、より自分の仕事が持つ意味も明確になりますし、自分の仕事はここまでという考えもなくなります。むしろ、「私はもっと仕事ができる」と手を挙げる人を潰してしまうことや、「誰も自分の頑張りに気づいてくれない」せいで優秀な人材を逃してしまうことだって防ぐことができます。幸い弊社もこの手法を実践することで、この時代にして優秀な社員たちが長年働いてくれています。

──さらに、仕事の全体像が可視化されれば、各工程における人材の過不足も明確になり、適切なリソース配分にもつながるということですね。

石橋 その通りで、人手が足りない工程にダラダラ残業をしている部署の人材を配分することもできます。日本の企業では、家に帰ってもやることがないとか残業手当が欲しいとか、仕事に関係のないダラダラ残業が意外と多く、一番に効率化すべきです。HIT法を活用すれば、1日の作業時間の把握が簡単にできて、チャンピオン工数(最速作業時間)が得られます。チャンピオン工数を基準にすれば、その残業が本当に必要かどうかを判断できます。ダラダラ残業だった時間を、忙しい工程や部署で働いてもらうことで、全体の仕事量を平準化するという選択肢もあります。結果的に、会社全体としての残業が減ることになります。

【「メタ思考」で考えるとは】
			メタの視点で考える→具体的な方法 自分を客観視する、無知の知、そのものを考える、上位目的を考える、抽象化する

メタ思考とは、「物事を1つ上の視点から考える」ことで、自己成長のためには必須の姿勢である。これにより、これまで見えなかったことに気がつき、また、思い込みから脱却することができ、創造的な発想へとつながっていく。


これからの時代の働き方

細谷 残業時間は指標のひとつとしては重要だと思うのですが、他方で、個人においては残業の概念が変化していると思うのです。

──それはどういうことでしょうか。

細谷 昔と比較すると、働く環境は大幅に向上していますよね。最も分かりやすい例は、スマホの普及です。いつでもどこでも、電子メールが読めて、返信できるようになった。また、パソコンを自宅に持ち帰り、仕事をすることも珍しくありません。極端な話、24時間仕事ができる状況です。

──自宅でのメールチェックは、厳密には時間外労働です。これを残業と捉えるか、仕事方法の多様化と捉えるかは、意見が分かれそうな気がします。

細谷 しかし、出社後の朝一番に貯まったメールをチェックするぐらいなら、出社前に家族との食事の前にメールをチェックした方がいいと考える人もいるわけです。それは働き方の多様化だし、ひとつの評価指標として必ずしも減らす必要はない。いろいろな指標があっていいと思いますね。

──ビジネススキル本などでは、すき間時間の活用として解説されることもありますね。結果として、自由に使える時間も増えます。

石橋 自由に使える時間は重要です。HIT法はチャンピオン工数で業務時間をきっちりと組み合わせをする分、1時間のうちの10%、6分間は本人が自由に使える「余裕率」を持たせてあげるんです。休憩時間とは別で。人は機械ではないので、その方が能率がいいんですね。また弊社ではいつも、1日は8時間×3で考えなさいと言っています。仕事、プライベート、睡眠の3分割です。会社組織の長として意欲的に働けて取り組める職場環境を考えたとき、社員にはできるだけプライベートの時間を設けてあげたい。だから、弊社には残業がありません。9:00~17:00の8時間の中で頑張ろうと言っています。8時間一生懸命働いてくれていて、それ以上のことを要求することもなかろう、という考えです。

細谷 ちなみに、社員の皆さんは、アフター5はどのように使われているのでしょうか。

石橋 スポーツをしたり、勉強をして博士号を取った者もいて、いろいろなことにチャレンジしているようです。私は、このような「私時間」こそが人生だと思うんですよ。あと最近は、スポーツや勉強もいいけど、恋愛をしろと言っていますね。家庭の良さということがね……もちろん、様々な価値観があるので強制をしているわけではありません。ただ、人と関わればその分、視野が広がるんじゃないかなって思うんです。

システム科学の実践

──最後に、今日の対談で印象に残った話を教えていただけますか。

細谷 例として社内の事例が多く挙がるのは素晴らしいですね。システム科学自体がHIT法で残業を減らしている。だからこそ、お客様に提案しても説得力がある。もうひとつ興味深かったのは、全体を可視化して、前後の工程を踏まえることで、全体最適となる評価指標を設ける仕組み。例えば、生産と販売を例に取ると、生産だけを考えた場合の評価指標は「どれだけムダのない在庫管理ができるか」です。しかし、ギリギリの在庫管理をすると、「販売工程での機会損失」が発生する可能性がある。生産にとっての評価指標が、部分最適になってしまうのです。ですから、HIT法のように、前工程や後工程を含めて可視化することが必要だと改めて感じました。

──石橋社長はいかがでしょうか。

石橋 なるほどと思ったのは、メタ思考の「物事を1つ上の視点から考える」というのは今、大変重要なことであるということ。視点を1つ上に持ってきて全体を俯瞰すれば、社員全員が、会社の指示や自分の仕事に納得感を持てるようになり、目的に向かって1つになれます。そして、組織はメンバーの合意が得られたときに、挑戦への意欲が出てくる。今の課長職は、失敗したときに「逃げる・ごまかす・隠す」のいわゆる“NGK”をやってしまいがちです。だから、そもそも挑戦しない。本来は、部下が挑戦したい仕事をやらせて、もし部下が失敗したら自分の指示が間違っていたと言える課長が増えなくてはいけません。それが、挑戦する風土にもつながります。

細谷 HIT法は全体を可視化した上で、仕事がリスト化、体系化されているので、どの段階でミスが起きたかすぐに分かりそうです。すぐにミスに気づければ、挑戦もしやすくなるのではないでしょうか。

石橋 おっしゃる通りです。今、私が挑戦していることは、それをさらに発展させたシステムの開発。リスクが発生しそうなときに、そのリスクが社長、専務、部長、課長のどこで対処すべきかをHIT法のチャート図から判断して、対応すべき人間に通知する仕組みです。課長の役割でおさまるのか、部長が知っておかなければならない問題なのか。出荷する前で不良が起きたのか、出荷したあとに不良が発生しているのか。そういったことがひと目で分かり、どの職責と工程で処置しているのかを明確にします。早い段階で処理をすれば、リスク管理につながります。

「HIT法」は「カウンセル活動」

一般的に「コンサル」とは、ヒアリング方式で行う業務改善。一方システム科学のHIT法は、マンツーマンで実践、確認・修正の推進サイクルを展開する「カウンセル」。活動終了後も改善を見つけ出す能力が身につくため、継続的に業務改善していく力をつけることができる。